温暖化防止とエネルギー問題の調和ある解決へ取るべき行動
関西サイエンス・フォーラム
第5専門部会「21世紀のエネルギーを考える会」
提言の背景
産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度が増加し、これに起因する地球温暖化が重大かつ深刻な問題となっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書によると、人為的な温室効果ガスの排出は、地球の平均表面気温の上昇、干ばつの頻度の上昇および動植物の生息範囲の変化など、地球上の気候や生態系へ重大な影響を及ぼしつつあるとされている。
関西サイエンス・フォーラム第5専門部会「21世紀のエネルギーを考える会」(部会長 茅陽一 地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長)は、我が国の経済が持続的発展を行うためには、地球環境問題に配慮したエネルギーの供給と効率的な利用が不可欠であるとの認識に立ち、関連する諸課題をテーマに取り上げ議論を深めてきた。
エネルギー問題を考えるとき、新技術開発、省エネルギー技術開発といった科学的側面だけでなく、それを利用する側の社会構造や個人の価値観といった、社会経済文化的側面からの考察が必要である。21世紀のエネルギーを考える会の活動の締めくくりとして、今回、科学的側面及び社会経済的側面の両面の視点に立ち提言を行いたい。
(国民と政府に向けての堤言)
| 提言1 国民一人ひとりが「環境問題の深刻性を認識し、生活の合理化とそれを通してエネルギー消費の効率化を推進する」という意識を明確にしよう。同時にそれを実行する社会システムの改革のきっかけとして、夏季軽装の実行とサマータイムの導入に努力しよう。 |
需要の伸びが著しい「民生」「運輸」の伸びを抑える場合、技術だけでは簡単に解決できず、国民一人ひとりの行動様式や認識の変化が必要である。そのためには、国が画一的な考え方を押しつけるのではなく、国民一人ひとりが環境問題の深刻さを認識し、自分たちの生活をより合理的な形に改善することによって自然にむだなエネルギーの消費を減らしていくことが望まれる。
しかし、それには、生活をめぐる社会の慣行やシステムが生活の合理化を促進する方向に変わっていかなくてはならない。その意味での変革のきっかけとして、ここではまず夏季軽装の実行とサマータイムの導入を提案したい。
日本のように高温多湿の夏を持つ国においては、夏季を過ごしやすい軽装が一般化することは国民、特にサラリーマンにとって大きな福音であり、またこれが定着すれば適正な冷房温度設定による省エネルギーの推進が可能である。関西では、自治体と経済団体から構成される関西広域連携協議会において、数年前から「関西夏のエコスタイル・キャンペーン」を実施している。これは、事務所・会議室における穏やかな冷房(例えば28度Cの温度設定)の実施を励行するとともに、どのような服装をするかは個人の自由であるが、穏やかな冷房にふさわしいビジネスウェア着用の奨励も行っている。このような活動を関西を発信源とする全国的な取り組みとして展開していくことが望ましいことであり、そのときには、首相を初めとする閣僚や中央官庁、自治体などの公的機関において適正な冷房温度に対応できる軽装を率先して採用する必要があるのではないか。
また、サマータイム制度は、1916年イギリスで、燃料不足解消のために採用したのがその起源である。照明・冷房のエネルギーの節約や勤務後の余暇時間がふえるなどの利点があるとされており、北半球のほとんどの先進国で採用されている。サマータイムは、明るい時間を少しでも多く有効に利用できる、という意味で国民の生活の快適性を高める意義を持っているが、同時に、省エネルギーに資する効用も持っている。すなわち、サマータイムを採用することによって、気温の低い早朝から人々が活動を開始すれば、外気温度が平均1度C下がったのと同じ効果があると報告されている。言いかえると、サマータイムの導入は、すべてのクーラーの冷房温度を1度C上げたのと同じ効果を持つと言えるのである。
このサマータイムは、日本においては終戦後一時期採用されたが、労働過重になる、慣習変更に抵抗感があるなどの世論調査結果などを背景に、結局、制度開始4年後に廃止されることになった。しかし、現在は当時と比べて大きく世情も変化しており、世論調査でも過半数の人が導入に賛成している。また、1年に2度、時計の針を調整することによってすべての国民が温暖化問題を考えるきっかけとなる効用もある。そのような意味で、政府は、「サマータイム」の導入に向けて一刻も早く努力することを要望したい。
(産業界に向けての堤言)
| 提言2 個性ある中小企業の技術力および産官学の有機的な連携を進めて、環境エネルギー分野での新たなビジネスを創出しよう。 |
環境問題はとかく経済にマイナスをもたらすと考えられがちであるが、エネルギー効率化など多くの対応方策はビジネスとしても大きなマーケットが期待されるものである。
従来の状況をみると、エネルギー利用の高効率機器の開発には中小企業の活躍が目覚ましく、他にまねできない独自の技術力を武器に、世界におけるトップクラスのシェアをも獲得している企業が存在する。関西には中小企業が多く、ものづくりをベースとした企業風土のもとに、さらなる高効率エネルギー利用機器が誕生する期待は大きい。
行政も技術を持った中小企業、大学の研究者、大企業との出会いの場を整備することによって、新たな製品の開発、新たなビジネスの創造に結びつけるべく動き出している。例えば、エネルギー環境分野では、近畿経済産業局が産官学のネットワークの形成を「EE(ええ)ネットの構築」と名づけ推進することにより、世界に通用する新規事業の集積を目指している。
今後は、1つのエネルギーの効率化に限らず、産官学の連携を軸に、企業は環境エネルギー分野での近年の展開を、新たなビジネスチャンスとしてとらえ、積極的に対応していくことを強く要望する。
(特に関西の企業、自治体に向けての堤言)
| 提言3 太陽光発電などの自然エネルギーや燃料電池などの分散電源の開発と展開を、関西の1つの特色として、積極的な取り組みを行おう。 |
地球環境問題の解決のためには、あらゆる努力の積み重ねが必要である。この意味で規模は小さくとも太陽光発電などの自然エネルギーの導入促進を着実に進めることは重要である。太陽光発電メーカーには関西を拠点としている企業が多く、また関西は燃料電池など分散型電源及び電力貯蔵電池の普及への関心の高い地域でもある。これらの推進は、地球環境問題の解決に役立つだけでなく、これら関西に拠点を置く企業およびこの企業と関連する中小企業の活性化につながる。
関西の企業は、ひとつ太陽光発電に限らずさまざまな自然エネルギーや分散電源を環境保全対策としてだけでなく関西活性化の1アイテムととらえ、その導入、技術開発に積極的に取り組もうではないか。
また、地方自治体等では、既に自然エネルギーの率先的導入が進められているが、関西の自治体においては、上記の観点からも、より積極的な取り組みを期待したい。
(エネルギー行政とエネルギー産業に向けての提言)
| 提言4 原子力の「パブリック・サポート」の強化に努力しよう。 |
従来からも、エネルギー産業や関係行政省庁は、原子力の「パブリック・アクセプタンス」の改善に努力してきた。原子力は、準国内資源という意味でエネルギー供給の安定化に資するばかりでなく、二酸化炭素を排出しないという意味でクリーンな電源であり、今後も原子力を安全かつ確実に推進していくことが必要である。
その立場からすれば、原子力は、国民にとって「甘受する」や「容認する」という意味で「アクセプト」するものではなく、より積極的に「サポート」する存在であるべきであり、関係企業/行政も、国民にただ「アクセプト」することをお願いするのではなく、今後のエネルギー環境事情から考えて、より前向きに「サポート」することを訴えていくべきである。
そして、このために、より一層の安全・安定運転を期することは当然だが、同時に国民への正しい情報の提供により原子力発電の透明性を高めるとともに、エネルギー、環境および原子力の問題について真正面から議論することが必要なのではないか。
(教育行政へ向けての堤言)
| 提言5 学校教育の場でエネルギー問題をより深く教え議論しよう。 |
我が国は、エネルギー問題は他の先進国以上に重要度が高いが、小中高校などの学校教育の中での取り上げ方は少なく、学生のエネルギー問題についての認識はむしろ他国より低いといった批判が多い。今後は、学校教育の現場で、エネルギー問題についてきちんとした知識を授けるとともに、学生たちが自分なりにさまざまな観点から議論したり研究したりできるようになることが必要である。それが結局はエネルギーの需要・供給両面においての合理的な行動を育む起動力になるのではなかろうか。
以 上
※この提言をまとめるに当たり、一部について意見を異にする委員があったことを付記します。
第5専門部会 「21世紀のエネルギーを考える会」
活 動 状 況
| 第1回 2000.1.14 |
委員紹介、活動方針・計画について |
|
| 第2回 2000.5.31 |
“太陽光発電” |
高倉秀行氏(立命館大学理工学部教授)
「太陽電池開発の現状」
石原好之氏(同志社大学工学部教授)
「同志社大学電気機器講座における研究」
大西 優氏(鐘淵化学工業取締役)
「薄膜シリコン太陽光発電の将来展望」 |
| 第3回 2000.8.2 |
“分散電源技術” |
伊東弘一氏(大阪府立大学大学院工学研究科教授)
「分散型電源の国内外の最近動向」
小久見善八氏(京都大学大学院工学研究科教授)
「固体高分子形燃料電池の現状と課題」
遠藤彰三氏(大阪ガス副社長)
「ガス業界における分散型電源への取り組み -ガスコージェネレーション及び燃料電池-」 |
| 第4回 2000.10.12 |
“原子力発電” |
前田 肇氏(関西電力副社長)
「日本における原子力発電について」
山地憲治氏(東京大学大学院工学系研究科教授)
「エネルギー政策における原子力の位置付け」 |
| 第5回 2001.1.16 |
“民生用エネルギー” |
中上英俊氏(住環境計画研究所所長)
「民生用エネルギー需要の動向」
辻 毅一郎(大阪大学大学院工学研究科教授)
「住宅における最終エネルギー消費の実態-関西文化学術研究都市における計測調査から-」 |
| 第6回 2001.4.16 |
“電力自由化” |
西村 陽氏(学習院大学経済学部非常勤講師、関西電力企画室戦略グループマネージャー)
「日本における自由化の意義と問題点、その解決策」 |
| 第7回 2001.7.25 |
“最近の政府のエネルギー政策動向について” |
茅 陽一氏((財)地球環境産業技術研究機構研究所長)
「最近の政府エネルギー政策動向-総合資源エネルギー調査会と総合科学技術会議の動きについて」 |
| 第8回 2001.12.3 |
“原子力エネルギー” |
松田 泰氏((財)原子力発電技術機構顧問・元東北電力副社長)
「わが国の核燃料サイクルについて」 |
| 第9回 2002.2.28 |
“運輸用エネルギー” |
谷口 正明氏((財)省エネルギーセンター調査第二部部長)
「運輸部門のエネルギー消費と乗用車の省エネルギー施策」提言骨子(案)審議 |
| 第10回 2002.4.24 |
“温暖化対策推進大綱について” |
茅 陽一氏((財)地球環境産業技術研究機構研究所長)
「温暖化対策推進大綱をめぐって」
提言骨子(案)審議 |
関西サイエンス・フォーラム
第5専門部会 「21世紀のエネルギーを考える会」委員名簿
部会長
茅 陽一 (財)地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長
副部会長
新宮 秀夫 京都エネルギー・環境研究協会代表・京都大学名誉教授
委員(学界)
天野 明弘 (財)地球環境戦略研究機関関西研究センター所長
石原 好之 同志社大学工学部電気工学科教授
大西 正視 関西大学工学部電気工学科教授
神田 啓治 エネルギー政策研究所所長・京都大学名誉教授
水野 稔 大阪大学大学院工学研究科教授
吉原 福全 立命館大学理工学部機械工学科教授
(企業)
遠藤 彰三 大阪ガス(株)副社長
大西 優 鐘淵化学工業(株)常務
須清 修造 川崎重工業(株)顧問
森 詳介 関西電力(株)副社長
鈴木 兼四 住友電気工業(株)常任理事・電力事業部長
スタッフ
白木 一成 大阪ガス(株)エネルギー開発部部長付
松本 毅 大阪ガス(株)人事部人材開発チーム課長
太和田善久 鐘淵化学工業(株)理事・PV研究開発部長
國松 孝士 川崎重工業(株)技術本部技術企画部TQM推進グループ参与
須田泰一朗 関西電力(株)環境室環境企画グループチーフマネジャー
仲田 和郎 関西電力(株)研究開発室チーフマネジャー
北村 耕一 関西電力(株)環境室環境企画グループマネジャー
松本 和久 住友電気工業(株)経営開発部開発企画室主幹
事務局
萩尾 千里 関西サイエンス・フォーラム専務理事・事務局長
兼子 次生 関西サイエンス・フォーラム事務局調査役
矢端 喜世 関西サイエンス・フォーラム事務局主任
蜂谷 由佳 関西サイエンス・フォーラム事務局
(2002.4.30現在)